コロナ危機が起きる前から景気はすでに非常に不安定な状態となっており、コロナが引き金を引いたが経済の悪化はなるべくしてなったといえる。米国のように高水準の債務と貧富の格差が拡大していた国では、中央銀行にできる力は限界に達していた。これは1930年から1945年に起きた経済・金融危機とよく似ている。


中央銀行や政府は資産買い取りのための紙幣印刷によって、新たに生み出したお金と信用で所得やバランスシートにあいた大きな穴を埋めるのに必死だ。しかし、個人も企業も国も貯蓄のないところではやがて破産に直面する。1930年から45年に起きたように地政学的パワーバランスが崩れ、世界の秩序が大きく変わる。国同士でも国内でも富と権力を巡る対立が激化する。45年以降の世界に起きたように富の再分配を巡って、資本主義と社会主義の両極端の対立も起きるだろう。


ドルが基軸通貨で、かつ新興国などがドル建て債務をドルベースで返済し、そしてドルによるモノの購入が続く限り、米国は覇権を維持できるだろう。しかし、いずれはドル建て債務の不履行が起きて債務が帳消しになったり、FRBによるドル紙幣の印刷が増えたりして、ドルの基軸通貨としての価値が低下する。そうなると米国の国力も低下する。歴史が示すように大英帝国やオランダの衰退も債務の拡大と通貨の下落とともに起こった。


米国の次に覇権を握るのは中国。サプライチェーンやテクノロジーの進化で誰が主導権を握るのかを巡って世界秩序の再編が起きるなか、中国が主役となる。ただ、中国の人民元が基軸通貨になるには時間がかかるだろう。


〜日経新聞〜